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東京高等裁判所 昭和45年(行ソ)4号 判決

再審原告

黒田重治

再審被告

東拓工業株式会社

再審被告

株式会社オーエー

右両名代理人弁護士

藤田辰之丞

弁理士

岡本冨三郎

右両名代理人弁理士

藤本英夫

主文

再審原告の訴を却下する。

訴訟費用は、再審原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

再審原告は、「原判決を取り消す。特許庁が昭和三七年六月二一日、同庁昭和三六年審判第二六九号事件および同年審判第三六三号事件(併合)についてした審決を取り消す。訴訟費用は再審被告らの負担とする。」との判決を求め、再審被告ら訴訟代理人は、主文同旨の判決を求めた。(以下略〉

理由

一再審原告が原告となり、再審被告らを被告として、その主張のような訴訟を提訴し、その主張のような経過で、原判決が確定したことは、当事者間に争いがない。

二再審原告の主張に対する当裁判所の判断は、以下のとおりである。

1  まず、再審原告は、審決のいう「製造途中の溶軟パイプに送入空気をつまんで密封したもの」と本件登録実用新案にかかる構成のパイプと同一のものであるとするのか、または別異のものとするか、および昭和三〇年に公然実施されていたとするのはいずれのパイプであるのかという事項にについて、原判決に判断の遺脱の違法があると主張するので、この主張について検討する。

再審原告の主張する再審事由は、本件記録を参照して考察すると、本件実用新案にかかる包装方法の考案が本件実用新案の登録出願前に日本国内において公然実施をされた考案であることを理由として本件実用新案の登録が無効とされるべきものであるかどうかの争点に関するものであることが明らかである。

ところで、本件記録によると、原判決が、その掲記の証拠に基づいて、昭和三一年一二月一四日以前において再審被告株式会社オーエーが、本件登録実用新案の考案と同じく、ビニールパイプに適当の圧力で空気を入れ、空気が逃げないよう両端を熔着し、ドラムに巻取つてもつぶれないような包装方法を講じて販売し、結局、本件登録実用新案にかかる包装方法の考案を公然実施していた旨認定していることは、その判文上、明らかである。

このように、原判決が、先に述べた争点について叙上のとおり判断をしている以上、原判決が民事訴訟法第四二〇条第一項第九号にいう重要な事項について判断を遺脱したものということはできない。再審原告の主張する事由は、原判決における叙上の判断自体ないしはその過程における認定の過誤を主張するものにほかならず、かりに原判決にかかる過誤があるとしても、これを通常の上訴の方法によつて争うのは格別、前記法条にいう再審事由には該当しないものといわなければならない。

2  のみならず、判断遺脱のような再審事由については、特別の事情のないかぎり、終局判決の正本送達により、これを知つたものと推認される(最高裁判所判決昭和四一年一二月二二日民集二〇巻一〇号二一七九頁参照)ところ、再審原告が昭和四〇年一〇月八日原判決の正本の送達を受けたことは当事者間に争いがなく、かつ、再審原告の主張する事実欄摘記のごとき事情は、いまだもつて、右にいう特別の事情に該当するものと認めることができない。したがつて、再審原告は、昭和四〇年一〇月八日再審原告のいう再審事由なるものを知つたものと推認すべく、他にこの認定をくつがえす証拠はない。

そして、前記当事者間に争いのない事実によれば、再審原告は、原判決に対し適法な上告の申立をしており、しかも、本件記録によると、再審原告は、原判決に対する昭和四〇年一二月一三日付上告理由書第三項において、原判決の認定した「公然実施の方法と態様は特許庁の審決が認定した出願前公然実施の方法、態様とは全く異るものである。即ち審決では……被上告人株式会社オーエーが、パイプ製造中に空気を送入してこれを密封したという事実が公然実施されていたと認定した。これに反して、原判決は、……下田保徳の証言即ち「製造後でき上つたパイプの両端を熔着して空気を圧入した」という証拠を採用して、出願前にかかる方法で本件考案と同一又は類似の考案が公然実施されていたという事実を認定した。両者はその結論において同一であるとはいえ、原判決の判断の過程には重大なる法令違反があるといわねばならない。」旨主張していることが認められる。右事実および叙上上告理由書の記載によれば、再審原告は、再審原告のいう本件再審事由なるものを知つて前記上告審においてこれを主張したものというべく、かりに主張しなかつたと認められるとしても、それを知りながら主張しなかつたものというべきである。したがつて、判断遺脱を理由とする本件再審の訴は、民事訴訟法第四二〇条第一項但し書の規定により、許されないものといわなければならない。

三よつて、本件再審の訴は、不適法であるから、これを却下することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法四二三条、第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(服部高顕 石沢健 奈良次郎)

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